銀盤の舞-フィギュアスケートエトセトラ-

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「アーティスト」な世界を作った、デニス・テン

 世界選手権の男子シングルの全ての結果が判明した。

 3.11から気持ちを切り替えてのテレビ観戦だったが、男子の試合が面白かった。

 とにかく度胆を抜いたのが、「デニス・テン」(カザフスタン)の演技だった。ショート、フリーを通して、大きなミスなくまとめあげた選手は、彼くらいではなかっただろうか。

 カナダの民衆は、冬季スポーツを見慣れているため、かなり目の肥えた人々が多いと聞いているが、その目の肥えた人々の心を、小柄な若武者は我が物にしていた。

 ショートもフリーも圧巻の演技だった。

 会場の観客全員と言っても過言ではないであろう、地元のパトリック・チャン、ケビン・レイノルズに負けない、いや、それ以上とも受け取れる「スタンディング・オベーション」の嵐。

 いずれも、映画「アーティスト」からの楽曲。ショート、フリーともに同じ映画からの楽曲を使うのは、あまり聞いたことがない。表現の仕方によっては、同じような世界観になってしまう危険性もあったはずだが、そこは、さすがローリー・ニコル女史。彼女は、その選手の個性を活かす振付をするのが、本当に素晴らしい。

 この映画は私も鑑賞したが、個人的に「レ・ミゼラブル」より好きな映画だ。「アーティスト」を見た後は、恋をしたくなる、ふと誰かのそばにいたくなる、私にはそんな映画だった。 - 現代の最高に美しい無声映画 - 色も言葉も少ない空間で、ほんの少しの字幕と登場人物の動きで、充分に内容は伝わる。感じ方は人それぞれだと思うが、それこそ、表現力に優れた映画だと、私は思っている。

 その“表現力”だが、デニス・テン、彼はずいぶん成長したのだなとつくづく感じた。こんなに感情溢れる演技をする選手だったろうか…今まで、惜しいところでジャンプでミスをして、ショート、フリーの2本とも完璧に揃えてくることはなかった。その「潜在能力」の芽生えを感じさせながらも、今一歩、いつも悔し涙をのんでいたデニス・テン

 -いつかは、表彰台にくる選手だろうけど… -

 その“いつか”が、今大会の世界選手権だった。

 ジャンプを決めたあとに、かつての伊藤みどりのガッツポーズを思わせるような小さくも力強いそのガッツポーズに、どれほど彼の思いが込められていたかと思うと、私もスタンディング・オベーションせずにはいられなかった。拍手喝采である。

 フリーの各要素の合計基礎点が低かったため、パトリック・チャンを追い抜くことが出来なかったようだが、デニス・テンのジャンプは、目の肥えたカナダの民衆を惹きつけるほど、あるいは、ジャッジを満足させるほど、美しい、加点の多くとれるジャンプだということは、素人の私にも分かる。ケガや体調不良など、アクシデント等に見舞われず、順調に伸びていけば、「ひよっとしたら、ひょっとする」逸材になるのではないかと思われる。

 今回、日本の男子は何とか「ソチ五輪3枠」を確保したが、デニス・テンは日本にとって、最強のライバルとなりうる選手であることは間違いない。彼が、このまま順調にいけばの話ではあるが…。

 初の表彰台、2位おめでとう!

 カザフスタン、おめでとう!

追記:

  ショートプログラムでは、デニス・テンとケビン・レイノルズ、パトリック・チャン

  フリーでは、デニス・テン羽生結弦無良崇人に、拍手を贈りたい。

  ちなみに、ハビエル・フェルナンデスのフリー「チャップリンメドレー」は、個人的に大好きなプログラムである。心がほっこりする。