銀盤の舞-フィギュアスケートエトセトラ-

スポナビ+ブログから引っ越してきました。

今季最高に美しかったチャンの“テイク・ファイブ”— ファイナル ショートプログラム —

※以下、パトリック・チャンについてを記述しているが、「今季最高のテイク・ファイブ」というのは、あくまでチャン自身の演技を比較した中で・・・という意味である。(H23.12.12追記)

・・・今夜の地上波放送が終わるまで、グランプリファイナルについての更新は控えるつもりだったが・・・。

男子シングルのパトリック・チャンについてのみ、記事を書きたい。

チャンのショートプログラム楽曲は、昨シーズンに続いての「テイク・ファイブ」(jazz)。もうすっかり耳に馴染んでいるどころか、少しくらいなら下手くそながら“振り真似”が出来てしまう(笑)。それほど、お馴染みのプログラムになった。

だからこそ、昨シーズンの素晴らしい演技が脳裏に焼き付いている。残念ながら、今シーズンは「ちょ、ちょっと待って」と云わんばかりの少々覇気のない演技が続いていたせいか、ファイナルではどんな演技を見せるのか・・・正直、興味深かった。

案の定(?!)、彼はやってくれた。

今季最高の演技だった。

一部ネットには、「演技前半にフェンスに衝突したにも関わらず、何故減点されないのか?」、「何故、高得点なのか?」・・・といったこれもまた案の定“疑念”で、渦巻いているようだが・・・。

4回転を跳んで無事着氷するということが、どれほどの体力や気力を要するのか・・・つなぎ(トランジション:TR)にまでは気が回らなくなることもある・・・バンクーバー五輪前後に、プルシェンコがそういった意味の発言をしていたそうだが、パトリック・チャンを見る限り、相当の基礎能力と体力がたたき込まれているということが、日を追うごとに私にも伝わってくるようになった。

フェンスに衝突さえなければ、今季最高の4—3コンビネーションだった。

ヨダレが出そうなほど、気持ちのよいジャンプだった。衝突によりやむを得ず転倒してしまったが、転倒した分は「−1点」きちんと減点されている。

専門的にジャッジの講習を受けたことは勿論ないが、昨シーズンまでの私自身の「観戦者」としての反省から、

● 疑念を抱いたら、まず徹底的にスケーティング(足さばき)を見る。

これに注視してきた。

フィギュアスケートを観戦する上で、今凄く役立っている“教本”がある。

フィギュアスケート 美のテクニック」(監修:樋口豊、企画・執筆:野口美惠、モデル:太田由希奈、発行:親書館)

野口美惠と言えば、最近はスポナビ+のフィギュアスケートコラム欄に記事が掲載されているが、自身も樋口豊氏主催の教室に通うなど、趣味でフィギュアスケートを練習しているそうだ。

偏りすぎない見方と、事実は事実としてしっかり伝えようという姿勢を、その文体から感じ取ることが出来る。好感が持てるライターだと感じている。

少しずつではあるが、ジャッジの云わんとすることが・・・何となく・・・分かるような気がしてきた。

少なくとも、きちんとジャッジ出しているなと、“感じる回数”が明らかに増えてきた。

浅田真央の欠場により、心なしかブルーな空気が会場に浸透しているような感覚を覚えたが、そんな中でパトリック・チャンの今季最高の“テイク・ファイブ”を堪能出来たのは、嬉しかった。

たくさん加点が貰える美しいジャンプやスピンをするのは勿論だが、エレメンツ(要素)ではない部分の、スケーティング技術は、やはり格別だ。

羽生結弦が「こんなに深いエッジで滑るなんて」と驚いたそうだが、スケーティングをする際には、エッジ(刃は表面に対して真っ平らではなく、刃の両脇が氷面に接し真ん中は氷面から浮くような、緩いU字形に作られている。)が、インかアウトになっていることが原則。フラットな状態(氷面に対してエッジが真っ直ぐ)でのスケーティングは、良いスケーティング姿勢ではないそうだ。

分かりやすく例えると、サーキットでコーナーを物凄い角度で曲がっていくバイクを想像していただくといいかと思う。あんなに極端ではないが、チャンのスケーティングの際のエッジは、専門的に言うと羽生が言う通り「エッジが深い」ということになるようだ。 エッジが深いと、氷面を蹴らずにスピードを加速することが出来る。村上佳菜子やジュニアの庄司理紗には、時折この「蹴り」が見受けられるのだが、蹴らずして深いエッジワークでハイスピードになってくると、かなり得点も上がるのだろう。

女子シングルのエリザベータ・トゥクタミシェワが、ショートプログラムでは精彩を欠いたが、解説の荒川静香が“さり気なく”語っていた言葉にも、いかにエッジの使い方が重要であるかが伝わってくる。

荒川 「エッジの使い方が、もっと深いエッジを使えないと・・・高得点は望めないですね・・・」

堂々たるロシアの14歳トゥクタミシェワも、さすがに緊張したのだろう・・・ジャンプは失敗、スピンは回転軸がぶれまくり、何より「スケーティング」の雑さが際立ってしまった。

おかげで、6人中唯一の「50点代」に留まった。

パトリック・チャンではなくて、これが高橋大輔小塚崇彦、あるいは羽生結弦だとしても、同じように“疑念”を抱かれるのだろう・・・。

浅田真央だとしても・・・。

“今の採点とルール”に合わせた戦略で、どの選手もコーチも関係者も勝負に挑んでいる。

加点という仕組みがある以上、加点で稼ぐという考え方も間違ってはいない。

難度の高い要素を習得して得点に反映させるという考え方も、間違ってはいない。

やり方は人それぞれだし、どの選手が好きで何のプログラムが好きかも、やはり人それぞれだ。

ちなみに、今回のカメラアングルとカメラワークは、会場がカナダということで、スケートカナダと同じチームだろうか・・・グランプリシリーズの中で、最もストレス少なく観戦することが出来た。

しかし、

毎回感じることに、佐野 稔氏には、もう少し分かりやすく“解説”して欲しい。

「今の」フィギュアスケートをきちんと伝えるには、ジャンプ偏重の報道や見方では余計に誤解を生むだけだ。

せめて、解説者にはそのあたりきちんと「解説」して欲しいと思うのだが・・・。