銀盤の舞-フィギュアスケートエトセトラ-

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日本男子フィギュアの一時代を築いた高橋大輔

先日、フィギュアスケートのグランプリシリーズNHK杯において、男子シングル羽生結弦が、シングル・フリー通しての総合成績で、史上初となる300点越えの「322.40点」を叩きだし、圧巻の強さで優勝した。

その後、ネットニュースによれば、「クリスマス オン アイス2015」(H27.12.19より4日間 大阪・新横浜にて開催)に出演するため、留学先のアメリカから一時帰国した 高橋大輔が、都内のイベントにゲスト出演した際、羽生結弦の大幅な世界歴代最高点の更新について感想を求められ、羽生の頑張りや努力について称え「時代は変わったなとつくづく思う。もう戻れない。」と語ったとのこと。

もう戻れない。

一見すると、この言葉だけが独り歩きしそうなマスコミの扱いではあるなと感じたが、「もう戻れない」と語ったその言葉の裏には、様々な思いが積み重なっているような気がして、思わず「大ちゃん、お疲れ様。ありがとう。」と感じずにはいられなかった。

振り返れば、男子フィギュアスケートの4回転時代と言うと、ロシアのアレクセイ・ヤグディンエフゲニー・プルシェンコ、そして4回転に拘り続けたフランスのブライアン・ジュベール等が思い出される。

ジュベールに関しては、4回転がビシっとうまく決まると、プログラム全体が「活き活きと」水を得た魚のように力づいてくる。トランディションやスピン等は低く抑えられがちだった彼の演技だが、技術だけではない表現力やハートを感じさせてくれる演技が好きな私にとって、ジュベールの演技は「4回転を成功させてくれるだけでいい」とすら思わせてくれる、ある意味特異なスケーターだった。

そして、忘れられないバンクーバー五輪における「4回転論争」。

ノーミスで圧倒的なプログラムの完成度を追求した、アメリカのエバン・ライサチェックが4回転を飛ばずして優勝し、4回転に挑戦し続けた2人の男、プルシェンコは2位、高橋大輔が3位という結果になったことは既にご存知のことだろう。

4回転論争の口火をきったのは、プルシェンコだ。

彼に関しては、五輪前から「嫌がらせ」ともとれる情報がマスコミによってネットを駆け巡っていたように記憶している。

「4回転に力を入れているから、どうしてもトランディションに万全のエネルギーを費やすことが出来にくい」といった主旨のコメントを過去にしていると…。それが、尾ひれ背びれついて、4回転論争の後々、ずいぶんと色んなことを言われていたんじゃなかったか。

なぜ彼が、ある意味自分を犠牲にしてまで(五輪王者である彼だからこそ、発言出来たとも言えるが…)、ノーミスで優勝したライサチェックを貶すような物言いで周囲に物議を醸したのか…。

バンクーバー五輪の前後、技術よりもいかに「美しく優雅に」プログラムを成功させるかといった、フィギュアスケートの中でも最もと言えば最もである「美しさ」に重点を置かれた採点に傾倒していった。その結果、プルシェンコジュベールのような4回転に拘り続けてきたスケーターにとっては、どちらかと言えば「モヤモヤ」した時代だったのではないだろうか。

プルシェンコは1度アマチュを退いており、バンクーバー五輪でアマチュ復帰した。)

バンクーバー五輪の試合後のインタビューで、先に述べたようにプルシェンコは4回転を飛ばずして優勝したライサチェックを結果的に皮肉ったわけだが、あの会見時、高橋大輔の顔に笑顔はなく、「4回転には今後も挑戦していく」といった強気な姿勢を見せていたのが、印象に残っている。

思えば、

あのバンクーバー五輪における「4回転論争」があったから、今日の羽生結弦の世界歴代最高点が生まれることにも繋がったと言っても過言ではないと思う。

ソチ五輪の王者である羽生結弦

彼の功績は素晴らしい。東北から世界の頂点になったわけだから。

しかし、羽生結弦がここまでくるに至った、最大限の功労者と言えば、高橋大輔だろう。

いくら男子シングルが優勝しても、マスコミの扱いはいつも女子シングルだ。常に、女子シングルの話題ばかりだ。

そういう視線をいつか「男子シングルも面白いんだよ。」と振り向かせたい、その一心でひたすらにひたむきに、日本男子シングルのステップアップ並びにレベルアップ向上に貢献し続けた、その元祖と言えば、高橋大輔を外すわけにはいかない。

勿論、4回転に挑戦を続けた本田武史が礎になっていることも、付け加えておきたい。

本田武史が挑戦し続けた4回転、そこに、色気という鍛えようのない天性の魅力を兼ね備えた高橋大輔が登場し、ニコライ・モロゾフに師事してからの凄まじい表現力の向上があったからこそ、外国人スケーターだけに向けられていた「黄色い声」が、いつしか大輔にも向けられるようになり、気がつけば「世界一のステップ」とまで言われるようになった大輔。

もう戻れない

とは言っているが、それだけ今の男子シングル界が物凄いところにきているという、大輔ならではの最高の称賛に思えてならない。

また、そう思わせるほどの実力をつけた羽生結弦も、見事というしかない。

全く比べることの出来ない、そえぞれがぞれぞれの魅力を兼ね備えている、どちらも日本が誇る素晴らしいスケーターであることは間違いない事実だ。

大輔の背中を見てきたジュニア世代のスケーター達も少なくない。彼の成し遂げてきた功績は、いつまでも廃れることはない。

私は、そう信じている。

<フィギュア>時代は変わった」高橋大輔さん、羽生称賛」 (毎日新聞 H27.11.30配信)