銀盤の舞-フィギュアスケートエトセトラ-

スポナビ+ブログから引っ越してきました。

採点競技を楽しむ難しさ — グランプリファイナルに思う —

・・・パトリック・チャンのフリー演技が終わった直後に映し出された映像には、モニターを見ていた高橋大輔と振付けのカメレンゴ氏がいた。

点数が発表されてから、ほんの数秒・・・だったのかも知れないが、私には長く感じられた。

その間、ブルースに思いを託した二人の男達は、“何を感じていたのか”無言のまま微動だにしなかった姿が、凄く印象に残っている・・・。

— ファイブ・セブン、ファイブ・エイト、ファイブ・セブン、ファイブ・エイト、ファイブ・ナイン・・・—

今の採点システムが導入される以前は、所謂「六点満点」方式だった。

技術点と芸術点に分かれていて、どこの国のジャッジが何点出したのか一目で分かるようになっていた。

当時の採点では、必ず会場にも得点コールがされていた。

ファイブ・エイト、ファイブ・セブン、ファイブ・ナイン・・・

私は、この「響き」が何故か好きだった。得点がアナウンスされるという、ワクワクドキドキ感が感じられて、試合独特のイントネーションにも、心弾ませたものだった。母などは、その得点コールをしょっちゅう、“真似”していた(笑)。

あれから、四十年・・・いや、それはきみまろさんのセリフだった(笑)・・・あれから何年たったのだろうか?

六点満点の採点システム時代で好きだったことに、「個性的」なスケーターが今より多かったことがある。誤解しないでいただきたいが、今のスケーターに個性がないと言っているのではない。今より当時の方が多かった気がするという意味だ・・・私の感じ方なのかも知れないが・・・。

今の採点システムでは、いい意味で「点取り虫」にでも徹するくらいでないと頂点にはいけない。ルールも吐き気がするほどに細かく多い。個性派スケーターが当時より少なくなるのも、頷ける。当時は許されていた技も今は出来ない、得点にならない等、ルール変更がしょっちゅうあるからだ。そんな中で、「表現力」も「技」も魅せてくれる高橋大輔の存在は、かなり貴重だと贔屓目かも知れないが、感じてしまう。

そんな高橋大輔もかなわなかったパトリック・チャンのフリー演技。

今の採点システムに当てはめると、確かにチャンは優れている。

舐めるようなスケーティング、転倒しても何事もなかったかのように“起き上がりこぶし”の如く、すっくと立ち上がり、スピンは回転軸がぶれずにチェンジエッジしても回転速度が落ちない、コンビネーションジャンプに半回転を敢えて組み入れて得点を稼ぐ・・・学校の試験では、要領よく勉強する優等生のような、スケーターだ。無論、これはコーチ陣の指導もあると思う・・・。

教本に載るようなお手本となるスケーティングをする選手であることは、間違いない。

しかし・・・

ジャンプ転倒を何度も派手にやられてしまうと、ミスが目立つし、印象が悪くなる。

ソルトレイクシティ五輪のペア競技の際の、「不思議な」不正行為申し立てにより、今の採点システムが導入された・・・ようだが、当時は「何故、ノーミスが勝てない?それはおかしい」・・・合衆国だっただろうか、カナダだっただろうか、メディアサイドが相当「過熱」したという流れになっているらしい・・・。

ノーミスじゃなくても今の採点システムでは、勝てるわけだが・・・辻褄が合わない(苦笑)。

ローリー・ニコル女史は今の採点システムの、ある意味「提唱者」と言っても間違いではないのだろうと思う。

かなり・・・実力者であり策士なんだろう・・・というのは、私の勘繰りだが。

だったら、

フィギュアスケートを見る者のレベルを上げろ?—

それなら望むところ、かかっていらっしゃい(笑)。

いや、ちょっと待った。

フィギュアスケートを将来的に“どうしたい”のだろうか?

そのスポーツが未来永劫、繁栄し続けるためには、子供達がチャレンジ出来る環境が何より必要だ。金の卵を育てるという観点からも。

今回のグランプリファイナルを、全国あるいは世界のどれくらいの子供達が、観戦したのだろう。

「ママ〜、だいしゅけ君は何で二位なのぉ〜?」

「パパ〜、この人いっぱいころんでるよぉ〜。でもゆうしょう?」

「どぉちてぇ?」

私は母親に毎回、なぜなぜ質問をされる。ただでさえ、フィギュアスケート以外のお喋りが多く集中が途切れるところに、採点システムのわかりづらさのために、こちとら骨が折れる・・・。

母「あらぁ、チャンさんどうしちゃったの?昨日(ショートプログラム)は良かったのにねぇ・・・」

母「(チャンの得点)これ・・・贔屓?大輔じゃないの?」

私が納得していないところを、説明出来るはずもない。

チャンのスケーティングは確かに素晴らしいのだが、ノーミスで初めて「感動」を覚えると言ってもいいほどに、彼のノーミスな演技は圧巻だ。が、大輔や羽生結弦のような、あるいはプルシェンコのような、内に秘めたる情熱のようなものを、申し訳ないが彼の演技から私は感じたことがない。おそらくそのせいもあるような気がする・・・腑に落ちないと感じる場面が多いのは・・・。

何事も「完璧」は難しい。採点システムも然り。だが、昔のようなワクワクドキドキ感を、私はまた味わいたいと思っている。

ファイブ・エイト、ファイブ・ナイン・・・

※おすすめ記事にエントリーされていながら、矛盾した内容を書いているかも知れない。しかし、突き詰めていくと「根底」では全く矛盾はしていない。

今の採点システムが必ずしも完璧ではないと感じていることと、チャンのスケーティングが素晴らしいことは、別問題。

高得点を取る選手=悪いヤツ ではない。