銀盤の舞-フィギュアスケートエトセトラ-

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美談に仕立て上げると危険な、羽生&ハンヤンの激突後の強行演技

グランプリシリーズ中国大会において、まさかの映像が目に飛び込んできた。

羽生結弦とハンヤンの6分間練習における、激しい激突。

素人目に見ていても、かなりの勢いでぶつかっているのは明らかで、羽生結弦に至っては氷上に倒れこんだまま、しばらく身動きがとれない状態が続いていた。

その映像を見た私は、心臓が張り裂けそうなほどの苦しさ、痛みを感じた。

「大事に至らなければいいけど…」

よろけながら、時折咳き込むように胸を激しく上下動させるその様は、大変な事態になったと感じた。

とてもじゃないが、これは無理だ。演技など出来るはずもない。棄権だな…。

そう感じたものの、羽生結弦のことだ。

ひょっとしたら無理やりにでも強行突破するんじゃないかという、嫌な予感もしていた。

オーサーコーチは、棄権するよう必死に説き伏せているようだったが、氷上あるいは客席の方角に目線を向けながら、悔し涙を浮かべる羽生。

彼の脳裏には、様々な葛藤があったのかも知れない。

コーチの言うことは、他人が責めるまでもなく羽生自身が一番分かっていることだろうと私は思っている。

しかしながら、アスリート魂とも言うものか、責任感とも言うものか…尋常じゃない思いが、羽生結弦を「神か悪魔が降臨した瀕死のファントム」へと変化させた。

反日感情が渦巻くとされる中国だが、ソチ五輪以降、羽生結弦ファンが激増したと言う。

そんな状況で、ハンヤンも気の毒であった。

地元の有力選手だ。将来有望な若手である。羽生と同じくハンヤンも期待の星だ。

ハンヤンは、「棄権出来る状況じゃなくなった」という考えもあったのではないか。複雑な心中もあったんじゃないかと私は思うのだけど…。

起きてしまったことは、もう仕方がない。四の五の言っても起こってしまったことは起こってしまったことだ。

ただ、他の方も指摘されているように、マスコミ等によって「美談」に仕立て上げられてしまうことに、強い危機感を覚える。

「羽生選手やハンヤン選手だって、頑張ったんだから」というこじ付けでもって、一般のアスリート達にまで、「無理強い」をさせるような風潮が起こっては絶対にいけない。

勿論、関係者が無理強いしたわけではなく、羽生自らが決めたことではある。

しかしながら、今回はオーサーコーチも、優しすぎた…と、思わないではいられない。

ソチ五輪の金メダリストである。

どうしたって影響力は大きいのだ。

あのような状況で、当事者である選手が「まともに」「正常な」判断が出来るとは思えない。

そういう時、冷静な大人の判断を周囲の人間が下してあげる「優しさ」を優先させるべきではないかと、思うのだが…。

スポンサーやテレビ局は、羽生の強行演技にホッと胸をなでおろしたかも知れないが、やはり棄権させるべきだっただろうと、私は思う。

美談に仕立て上げることには、違和感を覚えると同時に、危機感すら抱く。

昨今の日本は、いいも悪いもマスコミに同調しがちな傾向があるから、非常に危険な状態のもと、今回の件に関しても、賛否両論どちらかを悪者扱いにしてしまうことのないよう、議論をするなら冷静な議論をテレビではすべきであろう。

強行演技に踏み切った羽生結弦の目には、「神か悪魔か」とんでもないものが降臨していたようにすら、私には感じられて仕方がなかった。

とにかく、体を大事にしてもらいたい。

羽生結弦、ハンヤン、両選手とも、早く良くなって!