感涙を誘った鈴木明子の渾身の演技 — フリープログラム O(オー) —
バンクーバー五輪の感動を思い出させるかのような、見事な演技を披露した鈴木明子。
フリープログラム楽曲は、シルク・ドゥ・ソレイユ「O(オー)」— 従来、鈴木明子の定番とさえ言われるようになっていた、ステップで観客を巻き込んで舞台を作り上げる流れとは、全く異なるプログラム —
幻想的な曲調に、鮮やかな濃い青色のコスチュームが何ともリンクに映える。
ショートプログラムで5位と出遅れたが、2位以下の点差はいずれも僅差と言っていいほど、フリーでの逆転が可能な範囲ではあったが、内心、私は緊張していた。
心なしか、鈴木明子の表情は緊張しているように見え、それを見て余計に私の心拍数は上がっていった。
( 頼む!あっこちゃん、ファイナル行きを決めて! )
祈るような気持ちで、食い入るようにテレビ画面を見つめていた。
ジャンプの入り方や着氷等、細かいマイナス評価はあったとは思うが、プログラム全体を通してみた、新しい鈴木明子の銀盤の舞は、会場の観客をスタンディングオベーションへと誘っていた。
フィニッシュを迎えたその時、沸き上がる思いをこらえきれずに感涙にむせびそうな、鈴木明子がいた。
あぁ、、この表情・・・バンクーバー五輪で見た、フリーのフィニッシュで映し出されたあの時の表情に似ていた・・・とても、近いものを感じた。
今シーズン、フィギュアスケートで私が涙したのは、これが「初めて」だった。
体が震えた。
言葉が出なかった。
どんな形容詞を使ったら、この感動を表現出来るのか、分からなかった。
澄んだ水や空気が、淀みを拡散して浄化してくれるかのように、鈴木明子演じる「O(オー)」の世界は、私の心に染み渡った。清々しい朝を迎えた時のような、何とも澄み切った心地よいひとときを与えてくれた。
圧巻の演技だった。
ショートプログラムで出遅れた分優勝はならなかったが、総合2位になり、ファイナル行きを決めた。
フリーでは1位。
かつては、頑張っても頑張っても、なかなか思うような結果が得られず、メンタル面もどこか頼りなさがあった鈴木明子が、ここまで進化した姿を、私達に披露し続けてくれるなど、2〜3年前までは全く想像出来なかった。
才能がありながら病気のために出遅れた彼女は、地道にひたむきに、長久保 裕という名コーチをひたすら尊敬し続けて、今では「私の後を引き継いでコーチになって」と言わしめるまでに成長している。
ベテランと呼ばれるようになった選手が、素晴らしい進化を披露してくれると言うのは、私のような態度も年齢も「ベテラン格」の域に振り分けられつつある人間にとっては、とても頼もしく尊敬に値する。
フィギュアスケートから音楽に支配されていた私の心を、鈴木明子は呼び戻してくれた・・・素晴らしい演技を、ありがとう。
心から、感謝したい。